金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(全面改訂版)
1.金融教育のねらいと基本的性格
(4)多面的な取り組みの必要性
<1> 学校、家庭、地域等の連携の必要性(図表1参照)
ア.金融教育の核としての学校教育
金融教育に取り組む場として核となるのはやはり学校である。その第一の理由は、学校では教育の専門家により体系的に教育が行われるからである。教育の専門的な技術と児童・生徒・保護者の信頼関係の下で、最も効果的・総合的に教育を行うことのできる場は学校教育をおいて他にない。第二の理由は、学校は社会に出る前のすべての児童・生徒が教育を受ける場であるからである。金融教育は、お金を適切に扱う知識や技能を知り、トラブルを未然に防止するとともに、合理的で豊かな選択と意欲をもって生きる力を養うものである。そうした教育は、すべての子供たちが社会に出る前に受けておくべきものであり、そのためには学校教育によることが必要となる。
イ.家庭や地域等の支援
金融教育の次の担い手としては家庭が挙げられる。家の手伝いをする、お金の使い方について一緒に考える、家の収入はどこからくるのかを教える、家庭の収入や支出について知る、自分の将来について話し合う、親の生き方や職業観を学ぶなど、家庭には金融教育の題材がふんだんに用意されている。保護者はそうした場面を意識的に活用して、子供たちにどうお金と付き合っていくべきかを考えさせることができる。また、学校において金融教育を進める上でも保護者が学校の方針を理解し、積極的に協力することが、金融教育を有効で実りあるものにするために極めて重要である。学校側でも家庭の協力が得られるよう積極的な働きかけが必要である。
地域の支援も大切である。地域は子供たちが触れる最も身近な社会である。そこで子供たちは親や教師とは違う様々な人と触れ合い、その人の生き方や社会の仕組み・働きを知る。また、学校において金融教育を進める上で、子供や教師より現実の経済をよく知っている地域の人たちが協力してくれることは、教育内容を実感をもって伝える上で大いに寄与する。さらに学校において職場体験等を実施する際には地域の協力は不可欠の条件となる。
金融教育を進める様々な機関や団体の協力も大きな力となる。特に金融というやや専門的な分野に関してはそうした専門家のサポートは現場の教師が自信をもって教えていく上で大きな支えとなる(関係機関等の支援内容については第3章で詳述)。
<2> 小学校、中学校、高等学校、大学等の間の連携の必要性
金融教育は就学前の段階から、小・中・高等学校、そして社会人教育まで、一連のつながりをもって取り組まれるものであるが、学校段階だけに限っても、小学校から高等学校まで子供たちの発達段階に応じて継続的かつ発展的に取り組まれることが必要である。本書ではそうした視点から継続性あるプログラムの提示を試みたが、それをより有効に機能させるためには、幼-小、小-中、中-高、高-大、高-社など学校段階を越えた連携も必要となろう。その点、最近では小中一貫、中高一貫、小中高一貫などの取り組みが展開されており、そうした学校での金融教育の取り組みが大いに参考になるように思われる。
<3> 歴史等に学ぶ必要性
上で述べた横軸、縦軸の視点に加え、過去に学ぶことも意味あることのように思われる。日本には伝統的な金銭観がそれぞれの社会階層の中に様々なかたちで存在していた。既に廃れてしまったもの、今も生きているものなどいろいろであるが、そのときそのときの時代環境の中で、先人たちがどう生きてきたかを金銭とのかかわりの中で理解することは、現在の私たちが自分の価値観を磨く上で大事な示唆を与えてくれるように思われる。同様に諸外国における歴史的な金銭観の推移や現在の人々の考え方を知ることも私たちにとって大いに参考になろう。広く歴史や世界に目を向けて、自分のお金とのかかわりを見つめることは、金融教育をより幅のあるもの、より深味のあるものにするように思われる。
図表1 学校における金融教育推進のための各主体のかかわり
