金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(全面改訂版)
4.金融教育の指導計画の作成と実施に向けて
(5)学習の評価と学習指導の改善
<1>学習の評価の視点と方法
学習評価については、平成13年4月の指導要録の改訂で小・中・高等学校の評価は、各教科等の目標に照らしてその実現状況を観点別ごとに評価する、目標に準拠した評価になった。そこで、最初に目標に準拠した評価について幾つかの点について確認しておきたい。
周知のように、目標に準拠した評価は学習指導によって児童生徒がどの程度(「十分満足できる状況」「おおむね満足できる状況」「努力を要する状況」)目標を実現したかを評価する。目標の実現状況が満足できるものでないことが分かれば、補充的な指導を行うとともに、これまでの学習指導の改善を図る契機にもなる。その意味では極めて教育的なものといえる。
しかし、考え方として教育的にすぐれた評価であっても、実際の評価活動が実効あるものでなければそれは絵に描いた餅に等しいであろう。そこで評価活動を目標に準拠した評価として実効あるものにするために次の三つの条件を提案したい。
- ア.学習指導のねらいが明確になっていること
- イ.学習指導のねらいを実現した児童生徒の状態が具体的に想定されていること
- ウ.学習指導のねらいが実現されたかどうかを評価する方法、手段が事前に準備されていること
この中で、とりわけ条件アについては目標に準拠した評価の基本となる。何が指導のねらいであるかが明確でなければ目標の実現状況を見取ることはできないからである。次に条件イについては評価規準を設ける必要性を述べており、この規準をもとに目標の実現状況を判定するのである。さらに、ねらいを明確にし、評価規準を設けたとしても、実際に授業の中でどういう方法で評価を行うのか、どのような評価手段を用いるのかが検討されていなければ有効な評価データを手にすることができず評価そのものができないだろう。その意味では条件ウは重要である。
このような条件に留意するとともに、平成22年5月の指導要録の改訂を踏まえて、学習指導のねらいを「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」「知識・理解」の観点に分け、それぞれの実現状況を評価することになる。そして、それを総合化することによって評定を行うのである。なお、これまで評価の主要な手段としてペーパーテストが用いられてきたが、これだけではすべての観点をバランスよく評価することは難しい。観察やレポート、作品の作成など様々な評価を行っていくことが一層求められている。
各教科等で行われる金融教育についても以上のような評価の考え方に基づいて評価を実施していかなければならない。その際、各教科等で展開されている金融教育の内容は当該教科等のどの目標を実現しようとしているのか具体的に検討した上で、先に示したアからウの条件を満たす評価活動を行うように留意することが必要である。
例えば、「起業」のシミュレーション学習を通して株式や金融の働きについて理解するとともに、企業の社会的責任について考察させる授業を展開しようとすれば、株式や金融機関の働きについて理解できている状況や、企業の社会的責任について何を考察しその内容を説明できるのかを明確にしておくことが必要となる。また、それを記述させるのはワークシートなのかあるいはレポートで確かめるのかなどを決めておかなければならない。こうした準備が学習の評価にとって不可欠である。
<2>学習指導の改善
学習の評価が目標に準拠した評価となり、前述したように目標を明確化した指導が行われ、その実現状況が分かれば、指導の改善のポイントは自ずと明らかになってこよう。例えば、次のようなプロセスで学習指導の改善を行うことが考えられる。
まず、4観点ごとの観点別評価の中で何がうまく実現され、何が不十分かが分析できるため、不十分な状況にある観点の指導について検討することになる。例えば、先ほどの「起業」シミュレーション学習で「関心・意欲・態度」の観点の状況が不十分であれば、児童生徒に示した学習材が児童生徒にとって当たり前すぎるものであったのか、興味が全くないものであったのか、また、発問が問題であったのか、など様々な視点から次回の指導の改善を検討する必要がある。さらに、株式についての理解が不十分であったため、その後の追究意欲が生まれなかったのであれば、株式についての基本知識を補充的に学習する機会を設け、次の単元の学習に影響が出ないようにすることが必要となろう。
また、4観点ともに実現状況が十分であれば、発展的な指導が考えられよう。先の「起業」シミュレーション学習であれば、海外からの資本導入等、様々な例を考察させることが考えられよう。
評価結果を得て、補充的な学習指導や発展的な学習指導を検討できることが目標に準拠した評価を生かすポイントである。各学校で具体的に評価と指導の一体化を図ることが求められるところである。