金融教育プログラム-社会の中で生きる力を育む授業とは-
(全面改訂版)
4.金融教育の指導計画の作成と実施に向けて
(1)教育課程への位置付け
学校教育において金融教育を計画的に実施するためには、学校としての教育計画である教育課程に適切に位置付け、実施する体制を整える必要がある。教育課程は、小・中学校においては、各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間によって構成されている。高等学校については、各教科、特別活動、総合的な学習の時間によって構成されており、各教科等とも、学校段階の特質を踏まえながら一貫した目標、内容等をもって組織されている。教育課程に適切に位置付けるに当たっては、次の点に配慮することが大切である。
<1>児童生徒の実態および金融教育で身に付ける力を明確にする
どのような教育活動も児童生徒の実態や特性を踏まえると同時に、教育指導を通じてどのような力を身に付けるのかを明確にすることが前提となる。金融教育を実施する場合、まず第一に児童生徒の金銭にかかわる意識や生活の実態を把握することが重要である。児童生徒が、日常生活においてお金や金融、経済等をどのように受け止めどのような意識をもっているかを把握することによって、指導目標や内容、取り扱いのポイントが明らかになるからである。
次に、児童生徒の実態を踏まえ、金融教育を通じて身に付ける力について検討する。金融教育の目標は、学校教育目標の下に児童生徒の実態や地域や保護者の願い、社会的要請などを考慮して設定する。目標は、例えば小学校であれば「ものやお金の価値を知ること」「健全な金銭感覚を身に付けること」「お金と生活や社会のかかわりを知ること」「勤労の尊さを知ること」などのようなかたちで設定することが考えられる。中学校や高等学校の場合、関連の深い教科や総合的な学習の時間における扱いなどを考慮し、目標を設定することが必要である。目標の設定に当たっては、総括的な目標と同時により重点化した目標を設定する。例えば小学校の場合、低学年、中学年、高学年ごとにより具体的な目標を設定したり、中学校の場合、重点的に位置付ける教科等の学習との関連を明確にして目標を設定したりすることが考えられる。
<2>各教科等の目標、内容等の検討
教育課程において、各教科等はそれぞれ固有のねらいをもって教育課程に位置付けられており、金融を主として扱う教科は存在しない。そこで、金融教育を進めるに当たっては、金融教育にかかわる目標を実現できるよう各教科等に何らかのかたちで位置付けて取り扱うことになる。その際必要なことは金融教育と各教科等とをどのように関連させ、どのような役割を持たせるのかを吟味することである。例えば、国語における学習は、金融教育を展開する際の言語を用いた表現や取り上げる題材の面で意義があると考えられる。算数・数学は、数理的な処理の技能を生かすという点に意義があり、社会科は社会生活や経済、歴史等の側面からお金や金融をとらえる点に意義がある。いずれにしても、各教科等の目標、内容等の検討の上に、各教科等で取り上げる金融教育としての内容、題材、活動等を描き出す作業を行うことが必要である。
<3>児童生徒の発達段階に留意する
金融教育を教育課程に位置付ける場合、児童生徒の意識や発達段階を考慮することが重要である。例えば小学校低学年の児童は、お店で売られている商品に値段が付けられており、それと一致するお金を支払って商品を買うことは理解できる。ただ、お金を預金することの意味や利子などについて、理解を求めることは難しいと想定される。一方、中学生の段階では例えば金融機関の働きの一端を理解させることはできるが、個々の業務の仕組みや金融市場の仕組みなどの学習は高度であると考えられる。児童生徒の金融認識の特色を考慮して教育課程への位置付けを検討することが求められる。
<4>学年間の関連、各教科等の関連に留意する
教育課程の編成に当たっては、<3>で示したように児童生徒の発達段階に留意しながら、各学年間の目標、内容の連続性・継続性に配慮することが必要である。また、位置付ける教科等の相互関連に留意することも大切である。例えば、総合的な学習の時間に位置付けて実施する場合、内容や活動に応じて関連する教科の学習とのかかわりを明確にする。総合的な学習の時間でお金にかかわるテーマについて課題追究する場合、社会科や家庭科などにおける学習とどのように関連するかを明らかにしておくことが大切である。
<5>全体計画の作成
金融教育に限らず教科横断的な内容を実施する場合、学校として、金融教育のねらいや考え方、各教科等、学年における目標等を示した全体計画を作成することが必要である。全体計画を作成することによって、金融教育に関する学校の考え方や教育課程のどの部分で実施しようとしているのかが明確になる。また、全体計画は、各教科等、学年における指導計画作成の指針になると同時に、金融教育の取り組みや実現状況を評価する際のよりどころとなる。さらに、各学校がどのような取り組みを進めているかを対外的に示す資料としても活用できる。
<6>学習活動や指導体制を工夫する
金融教育においては様々な学習活動の工夫が可能であり、また、地域や外部人材の活用によって新鮮で豊かな学習を展開することができる。例えば、お金や消費生活、生活設計等に関する調査や聞き取り、シミュレーションやゲーム的な活動等多彩な活動が考えられる。また、地域における生産、流通、販売にかかわる事業は金融と密接に関連しており、職場体験学習として実施したり講師として招いたりする活動を位置付けることもできる。金融教育は、自分自身および家族の生活とともに地域社会の様々な教育機会や資源を活用することによって、具体的で生きたものになることが期待される。
<7>学習の評価と学習指導の改善
学習の評価については、目標の実現状況を示す評価規準の設定、評価場面、評価方法をあらかじめ明確にし、指導計画に位置付けることが必要である。その際、当該教科の目標の実現状況と金融学習としての実現状況を整理しておくことも考えられる。評価方法については、ワークシート、ノート、レポート、発表や学習活動の様子の観察などが考えられる。
また、一方で学習の評価の状況や授業の振り返りなどを通じて、授業の評価を行い、より改善された指導計画につなげる工夫を行いたい。